Vol.97 _ 鈴鹿市

A of 4C 邸

MESSAGE FROM 伊藤孝(建築家)

初めてお会いした際に印象に残った言葉があります。「最近雑誌でよく見かける個室がどこか分からないワンルームのような住宅には住めないです。」と奥様。そして、ご主人からは、「バウハウスが好きなんです。土浦亀城邸も好きです。」 私は心の中で小さくガッツポーズをしたのを覚えています。それは、違ったアプローチから計画を進めていくことが出来るかもしれないという期待からです。


住宅における個室を再考することから計画を始めました。明確にそれを意識した場合にいわゆるnLDKに還元されることの危険性を承知しながらも、nの解体や操作(ワンルーム的な解決はこの手法のひとつである)ではなく、またnとLDKの関係性で語られることのないところでの可能性を模索しました。nLDKでは語られることのなかった水廻りや収納こそ、むしろ住宅のイメージを決定づけているのではないか、と考えてみました。


この住宅では、団欒のスペースを中心に個室、水廻り、収納、物干場をコア状に四隅に配置しています。そうすることにより、個室はそれどうしが壁を共有することなく独立性を高めることができます。コアとそれ以外という構成は、Aさんが好みの仕上げのイメージを表現しながら、また階段や2階の廊下は屋根を構成する梁から鉄筋で吊る構造として明確に区分ができるような表現にしました。その明確に区分されたコアに動線が入り込んだり、またはみ出したりしながら繋がり方の深度を変化させることによって、新たな距離感や関係性が生まれる。明確な個室を持ちながら、アクティビティを誘発する仕掛けがここにはあります。


建築の専門誌にありそうな難解な文章を書いてしまいましたが、きっとAさんならきっと理解していただけると確信をしています。
しかしながら、これは気難しいひとりよがりの建築家(私は自分でそうではないと思っておりますが)によって押し付けられたものではありません。
どうやらはずしてしまったファースト・プレゼンから始まり、計画敷地の変更があり、ときには2部構成の長時間の打合わせを我慢強く(もちろん、お互いに、またスタジオの桂山さんも)重ねてきた結果なのであります。
Aさんの言葉や振る舞いから数多のヒントをいただき、長く試行錯誤繰り返し、かかわったみなさんがいい家づくりをするんだという強い意思が推進力となって、ここにひとつの作品が生まれたのだと思っています。


竣工直後の何もない空間でなく、住み始めてから撮影させていただいた空間が何より活き活きとみえる写真がすべてを物語っています。
私のすべきことは、それ自体が主張する空間をつくることではありません。そこに住まう家族の幸せに満ちた生活の背景をつくることだと考えています。それをあらためて実感できた住宅です。
Aさんとの出会いに感謝し、この家づくりにかかわったすべての方々にお礼を申し上げます。

ワークスへ
back